Thursday, December 30, 2004

オフショア開発成功の決め手「ブリッジSEとは?」

◆日本だけが特殊なのかも知れない。マネジメントのグローバル化
 今回はシステム開発コストの削減で注目を集める「オフショア開発」(海外開発)をテーマに、株式会社プライムシステム社主催のもと、実際にオフショア開発に携わるベンダーの方々などを迎え、議論を展開しました。
 「オフショア開発」を語るとき、外国の文化に根ざしたマネジメント風土の違いが必ず大きな論点になる。日本の風土や商慣習に慣れ親しんでいると外国のやり方に不満が募ることは少なくない。「日本では当り前のことが通じない。」「日本人のように言外を読むことができない。」など。
 日本では、基本的に発注元や上司が出すオーダーに対して、細かく指図しなくても『常識』という共通概念で細部を埋めてくれることを期待する。その常識の範囲内に「ずれ」はない。しかし海外にいくと、その常識に大きな誤差が生じる。また、納期に関して、日本では途中のマイルストーンに(不条理な)変更があっても最終的な納期は必ず守るのが「常識」だが、海外では、途中で何か変更があると納期も当然のことながらずれる。それが顧客の業務に重大な支障をきたすかどうかは関係ない。解決すべき問題が残っていても定時になれば帰る。
 確かに問題は多い。しかし「だからオフショア開発は困難だ。うまくいかない。」と言うのは早計である。異なる文化・慣習を持つ外国に行って仕事をするのである。「日本流」が通じないのは当り前である。積極的にオフショアに進出し、成功している企業はまず、「日本だけが特殊である。」という風に発想そのものから転換している。そして現地の文化・慣習を理解するよう務めている。
例えば「言外が読めない」のであれば、日本ではわざわざ言及する必要のない細部まで契約書に明記する。
・契約書で稼動時間を日本の営業時間に合わせるよう明記する。
・情報流出や人材流出を防ぐためのペナルティを盛り込む
など、これらによって防げるトラブルは多い。
そして時間をかけることによって所謂「日本流」も理解され、現地に定着させることが可能だ。しかしこの場合重要なのは、「正しいスタイルである日本流に直させる」のではなく、「日本という国と付き合う上での特殊なレギュレーションとして理解させる」スタンスが必要なことである。つまり、飽くまで「特殊なお客さんの事情に合わせる」ということなのだ。
◆ブリッジSEは現地エンジニアの上司たれ。
 そうは言ってもマネジメントの真髄は世界中どこへ言っても変わらない。個人主義、契約主義とは言っても、モチベーションが人を動かすことは世界共通の原則である。納期ギリギリの追い込み作業、或いは個人の判断力が問われる業務において高いパフォーマンスを発揮させるには上司との信頼関係が必要である。ここで重要な役割を果たすのが「ブリッジSE」である。ブリッジSEというと海外の開発会社に属して日本との橋渡しになる外国人SEのことを指すことが多いが、今回の主催者であるプライムシステムの場合は飽くまで日本に常駐して海外との橋渡しになる日本人SEのことである。
 日本のクライアントに直接接して、クラアントの要望を誤解のないように海外に伝え、その進捗をしっかり管理する。オフショア開発の成否はこのブリッジSEが優秀か否かにかかっていると言っても過言ではない。しかしブリッジSEは発注元の意を汲んだお目付け役ではない。飽くまでオフショアに軸足を置いた現地エンジニアたちの上司の立場にならなければいけない。現地エンジニアの成長に貢献し、成長の喜びを分かち合う役割なのである。そういう信頼関係が築けたときに「この人の依頼なら何とかしよう」というモチベーションからくるダイナミックなパワーが生まれる。
 そのような信頼関係を醸成するためにはどうすれば良いのか。同社のブリッジSE鈴木氏はさまざまな細かいテクニックを持っている。しかし、基本的なことは彼らの文化や気質を尊重し、理解したうえでともに成長していこうという意識である。彼らと同じ目線に立たずして信頼関係は生まれない。世界のどこにおいてもあてはまる当り前のことであるが、日本人が海外に進出する際にはとかく忘れがちになることである。
◆コスト削減効果は25~30%
 オフショアのエンジニアの単価は確かに低い。エンジニア単価だけで考えると日本の3分の1や半分ということになる。ならばTCOも半分か。それは誤解である。まず現状「オフショア開発」と言ったとき、上流の要件定義や基本設計は日本で受けて、詳細設計以降の工程を海外に出すことがほとんどである。当然上流部分は日本で開発するのと同じコストになる。そして優秀なブリッジSEがつけばコストもかかる。平均すると国内開発に較べて25~30%のコスト削減と言われている。
 実力をつけてきた海外開発先が上流部分から受けるケースは将来的には増えるだろう。しかししばらくはコスト削減の期待値はこのレベルの推移と思われる。オフショア開発に対する評価はTCOの削減率だけではなく、オフショア開発に取り組むことによるプロジェクトマネジメントのナレッジを積み上げることも合わせて考えるべきである。オフショアに取り組むことは、結果的に必ずグローバルなマネジメントスタイルとは何かを知ることになるからだ。

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