PROJECT FILE 1 旭化成プロジェクト
■「化学業界にeコマースを」
「化学業界はeコマースで進化できるはずだ」とするアクセンチュアと、「eコマースを全社で体系的に導入したい」旭化成の考えが一致。プランニングを任されることに。
エピソード
化学業界の経営革新に深く関わってきた歴史と欧米などで蓄積されたスキルをもとに、アクセンチュアはかなり早い時期から、業界各社へ、eコマースへの取り組みや考え方の啓蒙を行なっていた。そうした中で、もっともすばやく、そしてもっとも熱心な反応を示したのが旭化成であった。業界大手だからこそ、eコマースを通じた経営革新の必要性を感じ取り、時代に先んじて、顧客との関係や社内の仕組みを見直し、最適な形に作り込みたい。まさに、アクセンチュアの提言と旭化成の思考が一致。その瞬間、新たなビジネスがスタートを切った。
■3つの主要事業部門にeコマース・プランニング
経営トップはあえて主要事業からのスタートを決断。
アクセンチュアの提案が各部門のトップを本気にさせた。
そして主導権は、本社から各部門へ。
エピソード
プランニングを行なうにあたって、プレゼンテーションの相手がこれまでの旭化成本社の企画部門から化学関連部門へ移行。ここでも、アクセンチュアの化学業界に対する知識の深さ、そして、その提案内容が部門トップの心を捉えた。トップたちの琴線に触れたのは、化学業界の事例よりも他業界のeコマースの活用例であった。たとえば自動車業界での例。これまで隠すことが常識だった新車開発のプロセスを、デザインの段階からインターネットで公開し、ユーザーと一緒に開発を進めていった某自動車メーカー等のやり方を、化学業界にどう取り込んでいけるか。旭化成のeコマースにどう導入できるのか。こうした新鮮な視点、視野を広げる提案が、ついに各部門トップを本気にさせた。本社から貰った予算ではなく、各部門が自ら予算を投資して、積極的にeコマースに取り組むことを決定したのだ。そしていよいよ、本格的にプロジェクトが発足する。
■プロジェクト発足
プロジェクト発足にあたってメンバーを増員。
3ヵ月間のプランニング・フェーズがスタートし、まずは徹底した情報収集を行なった。
エピソード
プランニングに先立ち、パートナーは、いま一度、世界中のeコマースの先端事例やトレンドについて入念な調査・検証を行った。化学業界に対する本格的なeコマースは日本でも初めての事例。他社が実際に企画し、導入する過程で起こった細かい問題点や解決策まで徹底的に調査し、実現までのプランの方向性を綿密に検証したのだ。プロジェクトのトップであるパートナーが膨大な英語の資料と格闘しながら検証を行なっている間、マネージャーたちは、旭化成社内のヒヤリングに着手。技術部門や営業部門などの課長・部長クラス50人へヒヤリングを行ない、経営トップが把握しきれない現場の声からも現状を把握し、浮き彫りにしていったのである。
■eコマース、それも旭化成ならではの。
実際のプラン策定に向け、顧客との激しい議論が生まれた。徹底したディスカッションを行ない、月に1度の報告会で旭化成との調整を図りながら、彼らに必要な、最適なeコマース・プランを策定していった。
エピソード
実は、最初の報告会は、激しい議論の応酬になった。第1回目の報告ということもあり、アクセンチュア側は基本コンセプトをまとめることに重点を置いていた。eコマース導入後のイメージが明確にならない苛立ちと、導入後への期待感が大きい旭化成側は、コンセプト主体の話から具体像を掴むことができず、「ありきたりなプラン」という誤解を生んでしまったのだ。プロジェクトチームは期待に応えるべく、奮起し、議論を重ね、旭化成にとって必要な2つのeコマースを提示する。業界のトップを切って始めることで価値のある「成功確率の高いスタンダードな、あたり前のeコマース」。これは、あとから他社が真似をする可能性もあるが、最初に始めることで得られるメリットの大きさを明確化して提案した。そしてもうひとつ必要なもの。それが「旭化成ならではの強みを発揮するeコマース」である。事業ごとのマーケットやポジションの強み、サプライチェーン上の強み、競合に対しての強みなど、さまざまな面で旭化成が持っている「強さ」をより高めるeコマースを「あたり前のeコマース」と組み合わせることによって、他社には真似のできない、旭化成オリジナルのeコマースにしていくのだ。旭化成バージョンといえるeコマースを構築する。その答えで両者の視点は一致し、実行段階へのジャンプに成功することができた。
■大型投資家が決定、いよいよeコマース&経営革新へ
ついに、旭化成の信頼を勝ち取ることに成功。さらにスタッフを増員して、いよいよ開発フェーズへ突入した。しかし、まだその道のりは長い……。
エピソード
「成功確立の高いスタンダードな、あたり前のeコマース」と「旭化成ならではの強みを発揮するeコマース」との組み合わせに、旭化成も納得。大型投資が決定した。これによりアクセンチュアのプロジェクトチームはさらなる増員を決定。業務改革とそれを実現するシステム開発に必要な人材を投入し、実現へと大きく踏み出した。
この時期、旭化成の現場サイドからネガティブな意見が続出する。海外事例をそのまま旭化成に持ってきても、日本でその通りにできるはずがない。現状の業務が一番良いはず・・・というのだ。しかし、アクセンチュアが目指しているものは海外の焼き直しではなく、あくまでも旭化成バージョンのオリジナルeコマースである。それを理解してもらうため、より具体的なeコマースのカタチを提示する必要性をコンサルタントたちは感じ取っていた。
■イメージよりも実物主義で
イメージや一般論ではなく実際の画面に近いHTMLを作り、旭化成の現場スタッフに業務を変革するための具体的な作業を実感してもらうことに。
エピソード
現場スタッフの一部には、「ものすごいものができるのでは」という過度の期待があった。それは、自分たちの今の状況を変えたいという思いによるものではあったが、同時に、eコマースを魔法の杖のように思ってしまっていたからでもあった。そうした状況ではイメージや一般論を語れば語るほど、アクセンチュアが考えている現実的なeコマースの姿と、旭化成スタッフの考える夢のeコマースとがかけ離れていくばかりである。そこでアクセンチュアは、より具体的な作業を実感してもらい、業務を改革していくのは彼ら自身であることを感じてもらうため、実際のシステム画面に近いHTMLをつくり、毎日の業務がどう変わり進化するのかを実感してもらうことにした。 特に「旭化成ならではの強みを発揮するeコマース」の実現にあたっては、業務イメージを正確に伝えていく必要性から、コンサルタントたちは毎週金曜日に集まり、最大の効果を引き出すための業務のあり方は何かを考え、それを実現させるためのロジックを形にしたHTMLを作成。その意図や思想を徹底してディスカッションした。最終的に作られたHTMLは1000枚にものぼったが、実際に使用したのはその1/4にすぎない。一見ムダとも思える作業だが、これがコンサルタント間の意思統一に役立つとともに、旭化成現場スタッフのeコマースへの理解を深め、お互いのイメージ共有にも大きな役割を果たしたのだ。本当の改革を実現するためには、必要不可欠のプロセスだった。
■機能設計スタート
お互いの理解を深めシステムが具体的になるにつれ、eコマース・プランはアクセンチュアと旭化成とのコラボレーションという意識に変化していく。
エピソード
これまで、アクセンチュアには旭化成スタッフをリードしなくては、という思いが強かった。それは、自分たちがプロであり、eコマースについて深い知識があるからこその思いであった。しかし、実際にeコマースを実行するのはアクセンチュアではなく、旭化成のスタッフである。そこで、システム開発が具体化する時期を見計らい、アクセンチュアはナビゲーター役となって一歩後ろへ引き、プロジェクトの主導権を旭化成スタッフへ移行することにした。 すると旭化成スタッフの目の色が、それまでとは変わった。リアクションの少なかったミーティングでも、率直な意見や本音がどんどん飛び出すようになり、議論は活発化した。その結果、「変わりたい」という思いや、「こうしたい」というアイデアは日増しに強まり、トップを動かして決断を得るまで強固なものになっていった。現場がこれほど真剣に、そして本気になったことで、アクセンチュアはこのプロジェクトの成功を確信する。
■システムチェックとユーザーテスト
いよいよシステム完成間近。アクセンチュア側のシステムチェックと、旭化成によるユーザーテストを開始した。
エピソード
ようやくゴールが見え始めたシステム開発。その最終段階として、システムチェックとユーザーテストが始まった。今回のeコマース・システムは、いろいろな面において「初めて」という要素が多い。それだけにシステムチェックでスクラップ&ビルドを繰り返し、システムの質を高めていく必要がある。また、細かな部分については、システムを実際に使う人たちによるユーザーテストが必要となる。それは単なるシステムテストではなく、人の動きや働き方をどう変えるか、業務をどう変革し結果を生み出すか、という重要なプロセスなのだ。人とビジネスとシステムの全てを知るプロの仕事である。
システムをテストしてもらった時の第一声は「よくできている」であった。それは、アクセンチュアがシステムの裏にある業務を深く理解したうえでシステムを作り、チェックしてきたことの結果である。現場スタッフとコミュニケーションを密にし、積み重ねてきたことのすべてが結実した瞬間であった。
■システム導入
システムは完成した。
2001年春、2001年夏と立て続けに「成功確立の高いスタンダードなeコマース」の導入を行い、稼動させた。
一方、2002年初夏「旭化成ならではの強みを発揮するeコマース」はパイロット運用というカタチで船出をする。
エピソード
なぜ「旭化成ならではの強みを発揮するeコマース」を、既に稼動しているeコマースと同様にシステム完成後いきなり実践投入しないのか? 今回の「旭化成ならでは」のeコマースには大きな業務改革が必要であり、しかも、旭化成はこれまでにも多くの業務改革を実行してきた経験(しかもすべてに成果が出ているとはいいがたい経験)から、大きな変革をともなう新たなシステム導入に対してネガティブな人が旭化成社内に存在することも事実だったのである。そうした人々に、今回のeコマース・システムが有効なものであることを示すためにも、また、前例のないシステムで実績を作る意味でも、パイロット運用が必要なのだ。特定の企業を相手に試運転を行ない、実績を上げることで、その価値を認識してもらおうという考えだった。まもなくパイロット運用が稼動する。それが成功した時、旭化成バージョンのeコマースは、本当のスタートを切ることになる。
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