首都圏コンピュータ技術者協同組合 SE,プログラマの独立を支援
http://mcea.jp/
野口和裕2005/9/2
フリーエンジニアになると、どんな生活が待っているのか。そもそもフリーエンジニアで食えるだろうか。@IT自分戦略研究所で以前「実録:私がフリーエンジニアになるまで」を執筆した筆者が、フリーエンジニアになった以後を振り返り、その疑問に答えよう。
フリーエンジニアになって3年以上たちました。その間にさまざまな出来事がありました。今回は、フリーエンジニアになった後、私なりに気がついた点を述べさせていただきます。フリーを目指すエンジニアだけでなく、将来のことを考えているエンジニアのお役に立てれば幸いです。なお、フリーエンジニアになるまでの経緯については、「実録:私がフリーエンジニアになるまで」をご覧いただければと思います。
■フリーになって
フリーになる前は、フリーといえば緊張の毎日でその日その日をしのいでいく……、というイメージでした。フリーになった当初こそ、少しバタバタしていたのですが、その後は常に安定しています。
現在は営業・顧客折衝・上流設計担当のパートナーと、製造を担当するパートナーとでチームを組んでいます。私の仕事はそのチームで外部設計・内部設計といった上流から製造への橋渡しを担当するSEとしての業務と、主にSE向けの人材育成の仕事です。
会社員時代の管理職としての仕事や、そのほかの雑用から解放され、自分の得意分野に専念でき本当に楽しい毎日です。フリーになって良かった、そう感じています。
■フリーで大切なこと
いまが順調である理由を考えてみると、信頼できるパートナーがいるということが大きいと思います。
フリーでは営業していては仕事ができない、仕事していたら営業ができないというジレンマがあります。そういった中、それぞれの得意分野、専門性を生かしてチームを組むと、良い相乗効果が生まれます。
私はパートナーのおかげで、私はほとんど営業活動しなくてもよく、また製造においても、とても優秀な信頼できるパートナーがいるので、自分の得意分野に専念することができます。フリーで大切な能力は(フリーに限らないかもしれませんが)、仲間と信頼関係を築けることではないかと思います。信頼関係を築くという能力は、結局人間性の問題だと思います。スキルではないのでしょうね。抜群のコミュニケーション能力を持っていたとしても、不誠実であれば信頼を築くことは難しいですから。
ビジネスといっても、最終的には人と人のかかわり、関係だと思います。会社員のような後ろ盾のない、フリーであれば、なおさらです。
■プロであるとは
ここで少し話が変わって、皆さんにとって「プロであるとは」、どういうことだと思いますか。私は昔、お金を稼げることだと思っていたのですが、少し考えが変わりました。周囲の人とWin-Winの関係を目指して、それを実現する努力を惜しまないこと。いまはそう思います。
顧客に満足を与えても、自分が納得していなければ、プロと呼べないと思います。顧客以外にも、例えば一緒に仕事をしている外注さんがいた場合、その外注さんが不満ではいけません。自分も満足、顧客も満足、外注さんも満足という関係を作れることがプロの証だと私は思います。
高度に専門的なスキルを持った人でも、自分がよければいいという人がいると思いますし、わが身を犠牲にしてまで顧客に尽くしている人をみたら、プロというより奴隷かな、と思います。意外とこういう人多くありませんか?
Win-Winの関係を目指すのは簡単ではないと思います。まずは、自分のWinをはっきり認識し、主張する勇気が必要です。さらに顧客のWinを顧客の立場(自分の立場でなくて)で考えることも必要です。最後にその両方をWin-Winに持っていく。難しいかもしれないですが、最後まであきらめたくないことです。それができてこそ、プロフェッショナルだと思うのです。
私はたいした能力も、胸を張る資格もないのですが、私たちがパートナーと共に常にWin-Winを目指していたから、ここまで順調だったのではないかと思います。
結局Win-Winでなければ、継続して良い仕事はこなくなると感じています。
皆さんにとっての「プロであるとは」とは何でしょうか。
■キャリアの開発
資格というのは、自分を1つの商品とみたてて、その市場価値を上げるために取るわけですが、自分という商品をどうするかを考える前に、まず顧客とは誰か、そして自分がその顧客に与える価値とは何か、という観点で考えることが大切だと思います。
商品を開発するときは、まず顧客像をはっきりさせますよね。マンションを作るときは、高齢者向けか、ファミリー向けか、はたまたDINKSか、それによって間取りやデザインも変わってきます。自分自身のキャリアも同じではないでしょうか。
私の思う顧客像は……
金額よりも品質を優先するお客さま(多少高くても良いものを望まれる)
お互いの利益を尊重していただけるお客さま(なかなかステキなお客さまですよね)
こういう顧客の立場から見た、契約したいSEの価値とはどういうものであるか、という視点で考えます。ITスキルはある程度以上あることはもちろんのことですが、それにプラスして業務スキル、さらにはヒューマンスキル(+人間性)が必要だと思います。
「このSEは、ここまで俺たちのことを考えているのか」と思われるぐらい、顧客の立場になるSE」「運用の最後まで、収益がきちんとでるところまでフォローしていく」。そんなSE。
そうであれば、納得していただけるのではないかと思います。
「多少高くても良いものを」と望まれるお客さまの期待、価値を裏切らないように、そういう視点で足りないところ(だらけですが)を磨いていきたいと思っています。のです。
■収入について
さて、皆さんが気になる収入の話です。
会社員時代よりは上がりました。しかし、それ以上に大切と思われるのは、収入の「入り口」を分散できる、ということかもしれません。
会社員の収入は、基本的に1つの会社からですが、フリーの場合は、1つに限らずいろいろと広げていくことが可能です。IT関連にかかわらず、自分のやりたいことを見つけて、時間のあるとき、少しずつ種まきし収入に結びつける、なんてことができます。
例えば会社員の場合、カレー屋を開業したい場合、副業が認められていない場合、会社を辞めるしかないですが、フリーの場合は、カレー屋を開きつつSEをすることは不可能ではありません。ランチタイムと夜はカレー屋の店頭に立ち、空き時間にプログラムの設計です。夜中は仕込みかデバッグか……。
株式投資でリスクを減らす1つの方法として、分散して投資する方法がありますが、収入を分散することは社会生活のリスクを減らすことに効果的です。
私もいま、興味あることを見つけて勉強会や研修などに参加して、将来の商売のネタにしていこうと計画中です。どこまでビジネスになるのか未知数ですが、リスクヘッジというより、好きなことをしている時間はとても楽しいです。好きこそものの上手なれで、いつかこちらが本業になるかもしれません。カレー屋ではありませんよ、ちなみに。
また、フリーになると確定申告は自分でしなければなりません(税理士さんに代行してもらうにせよ)。自分の収入、経費、いくら税金を払っているかが把握できます。頑張れば収入は増えるし、努力すれば経費を減らせます。税金だけはどうにもなりませんが、それでも、工夫の余地は会社員よりはあります、今後自分の資産運用を自分で管理する時代になりそうですが、これはとてもいい勉強になります。
■フリーの形態
最近、私は会社(有限会社)を設立しました。フリーがある程度軌道に乗ったら節税、そのほかいろんな点でメリットが多い会社設立を検討することをお勧めします。
ポイントは、
ある程度の収入が継続して見込める
もう会社員にはもどらないと決意した
だと思います。ある程度収入があっても、その波が激しければ、かえって損をしてしまうかもしれません。また、個人事業主であれば、入ってきたお金を自由に使えますが、法人だと、その自由はある程度制限されます。何といっても会社のお金ですから。
しかし、個人事業主は退職金や年金(国民年金)の点で不利なことは否めません。将来のハッピーリタイヤ(私は目指せ生涯現役で、必要ないと思っていますが)に向けて利益の先送りがある程度できる法人化は検討した方が良いと思います。
また、法人化すると、いままで考えていなかったような経営者の視点で物事を見るようになります。書籍を読んだりセミナーに参加しただけでは、この視点はなかなか実感できませんでした。
会社の設立登記は、規制緩和のおかげで比較的簡単にできます。私も、司法書士に頼まず自分でやってみました。法務局や公証人役場など思いがけずていねいに教えてもらえました。やってみると、自分の会社を自分で作る、「俺は社長だ!」。そんな実感がわきます。自分の会社名を考えたりするのも楽しいですし、会社印ができたときもうれしくて、そこいらじゅうにペタペタと押しました……。
■フリーになってのメリット/デメリット
ここで、私がフリーになって感じたメリット、デメリットをまとめてみます。
メリット
(1)独立することで、姿勢が消極的(与えられた仕事)な姿勢から、積極的な姿勢に変わり、このことが人生についても深く考えるきっかけになった。
(2)自分に対する評価をすぐ知ることができる(厳しい評価でもすぐ分かることはいいはず)。
(3)時間配分が自由にできるので、家族との時間が増えた。ひょっとして家族は迷惑かも。ただし、どこかに常駐して仕事をする場合はこの限りではありません。
(4)雇用関係でなく、信頼関係で結ばれた本当の仲間ができた。
(5)収入の「入り口」の分散化(多角化)が会社員よりは容易。
(6)経営者の視点が経験できる。
デメリット
(1)1人で仕事していると孤独を感じる。これは結構厳しいです。普段から飲み友だち、興味のあるコミュニティ仲間などを作っておきましょう。
(2)私は幸いにも経験ありませんが、契約をきちんとしておかないと、取引先と支払いがないといった法的なトラブルがあった場合は大変のようです。
(3)病気や怪我などで働けなくなったときの保障(これらをサポートする仕組みもあるようです)。
■自分戦略
いま思うと会社員時代は、今後どういうスキルを持っていたら安泰か、飯が食えるのかでキャリアや自分戦略を考えていました。
フリーになってからは、どうしたら自分の価値観(大切にしているもの)を仕事を通じて実現できるだろうか、という観点で考えるようになりました。
なぜ、そのような心境の変化があったのかを考えると、フリーになってからは、自分の行動は自由に決めることができます。その自由が、人生について深く考えさせてくれるのだと思います。
結局、フリーになって一番良かったのは、自分の価値観を発見できたことです。
ここでエイブラハム・マズローの言葉を引用させてください。
「どう行動するべきかをいつも社会が教えてくれる世界、すなわち、社会が次のステップを指図して、エスカレーターに乗せてくれる楽な世界では、自分の弱みや失敗に直面することがないだけでなく、自分の強みを知ることもない。」(『フリーエージェント社会の到来』ダニエル・ピンク著、ダイヤモンド社刊)。
いま、この言葉を実感しています!
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