2. 思ったように認識されない“組織目標”
~こんな目標管理シートじゃ、組織目標は達成できない!?~
経営戦略実現のためのツールとして目標管理制度を発展させたいと考えている企業の目標管理シートを拝見すると、個人目標の設定欄の他に『組織目標』の記入欄を設けていたり、マニュアル等では、目標設定時には上司の目標との連動を図ることを促す記載が目立ちます。 上位目標との連鎖をしっかりと行っていきたいという意図がうかがえます。
ただし、実際に記載された内容をみると、
『同じ組織に属すメンバーの間で、「組織目標」欄に記載されている内容がバラバラ』
『組織目標は同じなのに、メンバーごとに目標項目に掲げられている個人目標がバラバラ』
『直属上司の目標に掲げられている内容と、部下の目標が連動している箇所が一箇所もない』
『関連部署と協働して達成すべき目標なのに、他組織では意識され、他方では何も触れられていない』
などの状態で、うまくかみあっていない状況があります。さらに、組織目標の大もとを発信する立場の、『役員層には目標管理が導入されていない』などといった企業もあります。
具体的なものを見ていきましょう。
例1は、上司から伝えられた組織目標を、メンバーが勝手に解釈し直して、それぞれの思いの中設定し、上司がメンバー間の認識の違いを修正していないというケースです。上記の場合は、個人目標については、同一の指標が掲げられており、一見問題ないように思います。
しかし、右の例の「ビジネスの可能性を見極める」という記述をしている社員は、この期において売上数字を達成していくことが、それほど重要とは思っていないのかも知れません。
組織目標の伝えられ方は、1対1の上司との面談を通じてのみで、組織全員で組織目標を共有する場がないという企業も多いです。この場合、メンバーすべてが同じように受け取っているとは限りません。
“組織目標”が大事と言っていても、目標管理シート上では意外と、この“組織目標”の欄が軽視され“形式上書いてあるだけ”という運用の会社も多いようですが、実は大きな問題を含んでいることもあるのです。
例2では、組織目標の内容はそのまま伝わっているようですが、それを個人目標に展開した場合、一方は“顧客の数”を追う、他方は売上の“額”を追うとしています。
「市場開拓」という組織目標のもとでは、「数」も「額」もともに立派な目標項目となります。
しかし、営業担当の行動レベルでは、 「数」を追うのと「額」を追うのとでは営業活動に大きな違いが出るケースもあります。
「数」であれば、小額の案件でも広くあまねく攻めていくという動きをとっていくでしょうし、「額」であれば、1社で大きな額が狙える相手先に深く攻めるという動きになるでしょう。
営業担当個別に、上記のような様々な動きを「市場開拓」していくという期待のもと、組織目標を展開しているのであれば、問題はありませんが、そうでない場合が多いようです。
組織長としては、大きな方向性とともに、メンバーにどういう動きをとって目標達成していくのかを、具体的な期待とともに伝えていく必要があるといえます。
例3は、新商品を数多く出し、市場に展開していきたい開発部と、既存商品でシェアアップを図りたい営業部とで、方向性が大きくズレているケースです。
つまり、ヨコの連鎖がうまくいっていない状態です。
この場合、全社的な視点が欠け、部門ごとの部分最適に陥っていることが考えられます。このままでは、部門目標は達成しても、全社目標は達成しないという状態を生みかねません。
例1-3は多少極端なケースですが、目標管理では組織目標を連鎖させることが大事と言われていても、なかなかうまくいっていないのが実情です。
目標管理制度を戦略実現のためのツールとして機能させるためには、個人目標を記述するテクニックを高めていくよりも、
組織目標を如何に洗練され、分かりやすいものにするか?
組織目標の意義や重視したいポイント等をメンバー全員で如何に共有できるか?
さらには、ヨコの組織との連携やシナジーをいかに図っていけるか?
がポイントといえます。
Sunday, March 13, 2005
こんな目標管理制度は要注意!【目標設定編】1
http://www.recruit-ms.co.jp/issue/feature/jinji-seido/200405/
日本企業における目標管理制度(Management by Objectives and Self Control)の導入率は8割以上と言われるほどポピュラーな仕組みとして企業に根付きつつあります。
制度導入が進む中、関心事は、「成果主義時代の評価の仕組みとして目標管理制度をどう設計するか?」ということから、「戦略実現のツールとしてどう活用していくか? 」「他の経営管理の仕組みと連動させて、いかに効果を高めるか」に移っているように思います。
“今月の特集では、主に目標管理制度の「目標設定」時の課題に焦点をあて、弊社が関わった目標管理制度に関するコンサルティングの経験談~とりわけ、“目標管理制度に課題を感じていると思われている会社の目標管理マニュアルや実際に記入された目標管理シートの添削”を通じて見えてきた課題や、その課題を解決策を提示していきたいと思います。
1. あなたの会社の目標管理は何のためのものですか?
~問題をつぶす前に、原点に立ち戻りましょう~
【導入目的の3パターン】
各社で導入・運用されている目標管理の特徴や課題を聞いていると、導入目的に応じていくつかのパターンがあることが見えてきました。大きく整理すると、以下の3つのパターンです。
パターン1:戦略実現のために用いる“マネジメント”ツール
【目的】
本来の目標管理制度の目的に沿う形で導入され、展開されているパターンです。
【運用のポイント】
このような会社は、「方針管理」などの手法とあわせて実施されており、比較的タテ方向の連鎖(目標のブレークダウン)はうまく行われています。
また、重要な取り組みにしぼって各組織、チーム、個人へと展開されてます。そのため、個人に展開する際は、日常取り組んでいるすべての仕事について目標として掲げるのではなく、重要なもののみ3つ目標とするなどといった運用をしている企業も多いです。
【課題のポイント】
タテ方向の連鎖が行き過ぎるとトップダウンが強くなり、従業員が「目標はトップから与えられるもの」という考え方になりがちで、「 and Self Control (自己統制)」の色合いが弱まります。そのためかえって従業員の自主性を損なってしまうという状況もあるようです。
パターン2:人事処遇決定のための“人事管理”ツール
【目的】
成果主義人事制度を強力に推進していくための人事管理のためのツールとして展開されているパターンです。
【運用のポイント】
成果に応じた処遇を実現するために、当該期間にあげるべき成果を目標として展開し、その達成度を評価していくというものです。現在、多くの企業で導入されておるのは、このパターンのものがほとんどといえます。
納得感高く、公正な運用ができるようウェイト、難易度、達成基準など細かな運用ルールを定めています。
【課題のポイント】
このパターンの課題としては、人事処遇へのつながりを意識するあまり「チャレンジャブルな課題を部下に任せられない」「本来の業務とはかけ離れた目標を設定してしまう」「目標管理が単なる評価の手続きと認識されてしまう」など、本末転倒な状況を生み出しているということが挙げられます。
パターン3:“コミュニケーション”の円滑化のためのツール
【目的】
人事処遇との結びつけというよりは、上司-部下間のコミュニケーションを円滑にし、仕事を進めやすくするためのツールとして展開されているパターンです。
【運用のポイント】
上位目標との整合性を重視するというよりは、本人にとって「やりたいこと」「やれること」を中心に目標設定し、チャレンジしていくということを重視しているものです。
そのため、個人の「能力開発目標」など、定量的な成果以外の目標の比重も高く設定されています。
【課題のポイント】
このパターンの課題としては、導入当初は「上司-部下間の会話が増えた」「仕事がやりやすくなった」などの声があがりますが、運用を重ねると、「何のためにやっているのか?」とそもそも論になりやすく、形骸化していくケースが多いようです。
いずれのパターンの目的においても課題はあるものの、目標管理制度は使えないものとして全く廃止してしまうということはなく、より良い仕組みになるよう試行錯誤を重ねているというのが実情です。 その解決の手段として「ミドルマネジメント層のスキルアップ」が取り上げられ、面談トレーニングや目標設定トレーニングなどを検討する企業が多いです。
【運用段階に応じたゴール設定】
このような課題を抱える状況で、コンサルタントとして、お客様に問いかけるのは
(1)現在の目標管理制度は何を狙って導入したのですか
(2)今後はどのような方向にむかっていきたいと考えていますか?
(3)目標管理がうまく運用されているとは、自社にとってどのような状態になることですか?
の3点です。
各種の組織人事制度や新たな経営管理手法の導入にあたっては、その企業のビジネスの仕組みや成長段階、社員の理解力・運用力など、導入時の状況に応じて、どのような目的のもと、どんな機能を備えるべきかを検討し、ゴールを定め設計していきます。そして一定期間の運用後、導入当初の目的が果たせているのか、検証を行い、必要に応じて見直しをかけていきます。
目標管理制度についても同様であり、導入後何年かが過ぎたら、当初の導入の目的が果たされているのかどうかを検証したり、企業を取り巻く内外の環境が変わってくれば、導入目的の見直しとともに、それに伴った制度内容の変更をしていくべきです。
当初は、コミュニケーションツールとして位置づけていた企業も、それを一貫して通すのではなく、次の段階では、人事処遇のためのツールとして位置づける、さらにその次は、組織業績のマネジメントツールとして活用していくなど、段階的にゴール設定しながら、目標管理の運用力を高めていくことが重要だと考えます。そのために、前述の3つの質問をなげかけています。
★最近の目標管理制度の傾向
コミュニケーションツールとして導入した企業→人事処遇との連動を模索する
人事管理ツールとして導入した企業→経営戦略実現のためのツールへ位置づけを変更する
経営戦略実現のためのツールを目指す企業→目標管理以外の経営管理手法との連動(たとえばバランススコアカードなど)を図る
このような動きが見られます。方向性は、戦略実現のためのツールとしての位置づけが多く、キーワードは、人事主導型の展開から現場主導へ、個人目標設定のテクニック論から組織目標と個人目標の戦略的な連鎖へと関心が移っているといえます。
ただし、一足飛びに理想像に近づくのはなかなか難しい実情があります。 どのような段階であれ、次の段階をめざす場合、「なぜやるのか」、「何をするのか?」が不明確で従業員に伝わっていない状況で、「どのように行うのか?」のノウハウ論を展開しても効果がありません。安易に「マネージャー層の目標管理運用スキルが問題」と片付けるのではなく、目的に照らして、今何をやらねばならないのかを考えてみる必要があると思います。
日本企業における目標管理制度(Management by Objectives and Self Control)の導入率は8割以上と言われるほどポピュラーな仕組みとして企業に根付きつつあります。
制度導入が進む中、関心事は、「成果主義時代の評価の仕組みとして目標管理制度をどう設計するか?」ということから、「戦略実現のツールとしてどう活用していくか? 」「他の経営管理の仕組みと連動させて、いかに効果を高めるか」に移っているように思います。
“今月の特集では、主に目標管理制度の「目標設定」時の課題に焦点をあて、弊社が関わった目標管理制度に関するコンサルティングの経験談~とりわけ、“目標管理制度に課題を感じていると思われている会社の目標管理マニュアルや実際に記入された目標管理シートの添削”を通じて見えてきた課題や、その課題を解決策を提示していきたいと思います。
1. あなたの会社の目標管理は何のためのものですか?
~問題をつぶす前に、原点に立ち戻りましょう~
【導入目的の3パターン】
各社で導入・運用されている目標管理の特徴や課題を聞いていると、導入目的に応じていくつかのパターンがあることが見えてきました。大きく整理すると、以下の3つのパターンです。
パターン1:戦略実現のために用いる“マネジメント”ツール
【目的】
本来の目標管理制度の目的に沿う形で導入され、展開されているパターンです。
【運用のポイント】
このような会社は、「方針管理」などの手法とあわせて実施されており、比較的タテ方向の連鎖(目標のブレークダウン)はうまく行われています。
また、重要な取り組みにしぼって各組織、チーム、個人へと展開されてます。そのため、個人に展開する際は、日常取り組んでいるすべての仕事について目標として掲げるのではなく、重要なもののみ3つ目標とするなどといった運用をしている企業も多いです。
【課題のポイント】
タテ方向の連鎖が行き過ぎるとトップダウンが強くなり、従業員が「目標はトップから与えられるもの」という考え方になりがちで、「 and Self Control (自己統制)」の色合いが弱まります。そのためかえって従業員の自主性を損なってしまうという状況もあるようです。
パターン2:人事処遇決定のための“人事管理”ツール
【目的】
成果主義人事制度を強力に推進していくための人事管理のためのツールとして展開されているパターンです。
【運用のポイント】
成果に応じた処遇を実現するために、当該期間にあげるべき成果を目標として展開し、その達成度を評価していくというものです。現在、多くの企業で導入されておるのは、このパターンのものがほとんどといえます。
納得感高く、公正な運用ができるようウェイト、難易度、達成基準など細かな運用ルールを定めています。
【課題のポイント】
このパターンの課題としては、人事処遇へのつながりを意識するあまり「チャレンジャブルな課題を部下に任せられない」「本来の業務とはかけ離れた目標を設定してしまう」「目標管理が単なる評価の手続きと認識されてしまう」など、本末転倒な状況を生み出しているということが挙げられます。
パターン3:“コミュニケーション”の円滑化のためのツール
【目的】
人事処遇との結びつけというよりは、上司-部下間のコミュニケーションを円滑にし、仕事を進めやすくするためのツールとして展開されているパターンです。
【運用のポイント】
上位目標との整合性を重視するというよりは、本人にとって「やりたいこと」「やれること」を中心に目標設定し、チャレンジしていくということを重視しているものです。
そのため、個人の「能力開発目標」など、定量的な成果以外の目標の比重も高く設定されています。
【課題のポイント】
このパターンの課題としては、導入当初は「上司-部下間の会話が増えた」「仕事がやりやすくなった」などの声があがりますが、運用を重ねると、「何のためにやっているのか?」とそもそも論になりやすく、形骸化していくケースが多いようです。
いずれのパターンの目的においても課題はあるものの、目標管理制度は使えないものとして全く廃止してしまうということはなく、より良い仕組みになるよう試行錯誤を重ねているというのが実情です。 その解決の手段として「ミドルマネジメント層のスキルアップ」が取り上げられ、面談トレーニングや目標設定トレーニングなどを検討する企業が多いです。
【運用段階に応じたゴール設定】
このような課題を抱える状況で、コンサルタントとして、お客様に問いかけるのは
(1)現在の目標管理制度は何を狙って導入したのですか
(2)今後はどのような方向にむかっていきたいと考えていますか?
(3)目標管理がうまく運用されているとは、自社にとってどのような状態になることですか?
の3点です。
各種の組織人事制度や新たな経営管理手法の導入にあたっては、その企業のビジネスの仕組みや成長段階、社員の理解力・運用力など、導入時の状況に応じて、どのような目的のもと、どんな機能を備えるべきかを検討し、ゴールを定め設計していきます。そして一定期間の運用後、導入当初の目的が果たせているのか、検証を行い、必要に応じて見直しをかけていきます。
目標管理制度についても同様であり、導入後何年かが過ぎたら、当初の導入の目的が果たされているのかどうかを検証したり、企業を取り巻く内外の環境が変わってくれば、導入目的の見直しとともに、それに伴った制度内容の変更をしていくべきです。
当初は、コミュニケーションツールとして位置づけていた企業も、それを一貫して通すのではなく、次の段階では、人事処遇のためのツールとして位置づける、さらにその次は、組織業績のマネジメントツールとして活用していくなど、段階的にゴール設定しながら、目標管理の運用力を高めていくことが重要だと考えます。そのために、前述の3つの質問をなげかけています。
★最近の目標管理制度の傾向
コミュニケーションツールとして導入した企業→人事処遇との連動を模索する
人事管理ツールとして導入した企業→経営戦略実現のためのツールへ位置づけを変更する
経営戦略実現のためのツールを目指す企業→目標管理以外の経営管理手法との連動(たとえばバランススコアカードなど)を図る
このような動きが見られます。方向性は、戦略実現のためのツールとしての位置づけが多く、キーワードは、人事主導型の展開から現場主導へ、個人目標設定のテクニック論から組織目標と個人目標の戦略的な連鎖へと関心が移っているといえます。
ただし、一足飛びに理想像に近づくのはなかなか難しい実情があります。 どのような段階であれ、次の段階をめざす場合、「なぜやるのか」、「何をするのか?」が不明確で従業員に伝わっていない状況で、「どのように行うのか?」のノウハウ論を展開しても効果がありません。安易に「マネージャー層の目標管理運用スキルが問題」と片付けるのではなく、目的に照らして、今何をやらねばならないのかを考えてみる必要があると思います。
失敗しない360度評価制度の導入法3
3.360度評価制度活用事例
今までの各社の利用状況から様々な用途に用いることができるといえます。 おおまかに分類すると、
能力開発プログラムの一環に
自己の能力発揮状況を振り返り、日常の職場行動を見直す
昇格候補者に目指すべき姿を認識させ、現状の自己とのギャップをもとにアクションプランをたてさせる
上司が部下の能力向上策を設定する資料とし実施し、面談のツールとして利用する
人事評価をより客観的にするために
上司推薦や人事考課とは別に、人事部にて部門審査を検証するために利用する
能力考課の際に、考課者自身が自分の評価眼を補正するために利用する
昇格審査の面接材料として、面接者が対象者の職場での能力発揮状況を確認し利用する
役職者の適正・公正な配置・移動を行うために
グループリーダーあるいは役職者の任免・罷免の検討するための資料として利用する
資格制度の変更に伴って、役職者の格付けを見直すための資料として利用する
組織活性化・意識改革のインパクトプログラムの一環に
管理者に果たすべき役割を認識させる
360度評価自体のインパクトを利用し組織内の緊張感を醸成する
管理者を中心として社内の組織の活性化状況を調査する
今までの各社の利用状況から様々な用途に用いることができるといえます。 おおまかに分類すると、
能力開発プログラムの一環に
自己の能力発揮状況を振り返り、日常の職場行動を見直す
昇格候補者に目指すべき姿を認識させ、現状の自己とのギャップをもとにアクションプランをたてさせる
上司が部下の能力向上策を設定する資料とし実施し、面談のツールとして利用する
人事評価をより客観的にするために
上司推薦や人事考課とは別に、人事部にて部門審査を検証するために利用する
能力考課の際に、考課者自身が自分の評価眼を補正するために利用する
昇格審査の面接材料として、面接者が対象者の職場での能力発揮状況を確認し利用する
役職者の適正・公正な配置・移動を行うために
グループリーダーあるいは役職者の任免・罷免の検討するための資料として利用する
資格制度の変更に伴って、役職者の格付けを見直すための資料として利用する
組織活性化・意識改革のインパクトプログラムの一環に
管理者に果たすべき役割を認識させる
360度評価自体のインパクトを利用し組織内の緊張感を醸成する
管理者を中心として社内の組織の活性化状況を調査する
失敗しない360度評価制度の導入法2
2.360度評価制度導入・運営のポイント
『部下が上司を逆査定する』ための手法ではなく、経営の意思を伝え、人事制度をより納得性高く運用するために、経営戦略の施策として位置づけることが重要です。そして、より効果的な施策とするために、以下のような実務上のポイントがあります。
■目的の明確化
評価手法を前面に出して導入するのではなく、どのような効果を期待してこの手法を導入するのかを十分に社員に伝えることが重要です。CS(顧客満足)という観点からすれば、“上司の顧客は部下”、「顧客の声を聞く」という360度評価の本質は忘れてならない視点と言えます。
■評価結果を処遇に直接反映させる場合は慎重に
360度評価制度を導入して、失敗していると言われている企業の多くが、360度評価制度を処遇決定(昇進昇格基準や賃金決定)に直接反映させている、もしくは、直接反映しているのではないかと従業員に「思われている」場合です。
前ページで、360度評価は評価制度の納得感の向上につながると申し上げましたが、例えば評価結果自体の平均値は、所属している組織風土に左右されたりするなどバイアスがかかっていること、本人の周囲への関わりによって予想以上に上下することが言われており、何の策も打たずに360度評価結果を直接処遇に反映させることはかえって納得感の低下につながり、 デメリットが多いといえます。ですので、360度評価の処遇への反映は、上司評価時の参考資料程度にとどめ、かつ、本人へのFBや事実確認(どうしてこういう高い/低い評価となっているのかの自己認識の確認など)を行うことが求められます。
■トップからの導入
やはり“改革はトップから”行うべきものであり、経営トップ層の自己革新の意気込みを伝えます。 360度評価から何が読み取れるのか身をもって体験し、部下の結果を解釈しフィードバックするときの貴重なノウハウとするためにも上層から実施することが望まれます。
■的確な名称
“評価”は、多義的な意味を含むがゆえに“査定”という響きを思い起こす社員もいます。たとえば、評価表(評価シート)は、“行動診断調査表”、“エンパワーメント実践質問票”、“リーダーシップサーベイ”などにしたり、後のフィードバックや研修など行われる施策全部を総称して、○○プログラム、××制度、△△システムとしたりします。
■評価時の選定工夫
データを活用する人は誰かという観点を中心に、企業の風土や実施目的に合わせて評価者選定の方法を変えます。本人に評価者を選ばせる、一定の条件から上司に選択させる、ある階層以上に限定するなどフレキシブルに行います。
■自己評価の実行、評価項目の公開
本人も自己を評価し周囲の評価とのギャップを理解させるようにします。さらに初回の評価を行う前に、対象者及び評価者に広報しその内容の意味を理解してもらう機会をつくります。説明会だけでなく、360度評価の評価項目についてその背景から意図について説明する講習会を運営している企業もあります。
■評価者匿名性の確保
配布時は評価者ごとへ直送し、回収時は人事あるいは研修部などへ直送するようにします。
■本人へのフィードバック
360度評価単体で実施をせず、自己啓発・能力開発のきっかけづくりを目的として必ず本人に結果を返却し、 何をどうするべきか議論する場を設けます。職場の上司、メンバーを巻き込んだフィードバックシステム(職場ミーティング)を導入し、組織活性化につなげるためにオープンなコミュニケーションを実践している企業もあります。
■複数回実施
“変化する行動”を評価していることを認識してもらい、日頃から期待されている行動を意識し、行動を変革することが重要であることを明確にします。
『部下が上司を逆査定する』ための手法ではなく、経営の意思を伝え、人事制度をより納得性高く運用するために、経営戦略の施策として位置づけることが重要です。そして、より効果的な施策とするために、以下のような実務上のポイントがあります。
■目的の明確化
評価手法を前面に出して導入するのではなく、どのような効果を期待してこの手法を導入するのかを十分に社員に伝えることが重要です。CS(顧客満足)という観点からすれば、“上司の顧客は部下”、「顧客の声を聞く」という360度評価の本質は忘れてならない視点と言えます。
■評価結果を処遇に直接反映させる場合は慎重に
360度評価制度を導入して、失敗していると言われている企業の多くが、360度評価制度を処遇決定(昇進昇格基準や賃金決定)に直接反映させている、もしくは、直接反映しているのではないかと従業員に「思われている」場合です。
前ページで、360度評価は評価制度の納得感の向上につながると申し上げましたが、例えば評価結果自体の平均値は、所属している組織風土に左右されたりするなどバイアスがかかっていること、本人の周囲への関わりによって予想以上に上下することが言われており、何の策も打たずに360度評価結果を直接処遇に反映させることはかえって納得感の低下につながり、 デメリットが多いといえます。ですので、360度評価の処遇への反映は、上司評価時の参考資料程度にとどめ、かつ、本人へのFBや事実確認(どうしてこういう高い/低い評価となっているのかの自己認識の確認など)を行うことが求められます。
■トップからの導入
やはり“改革はトップから”行うべきものであり、経営トップ層の自己革新の意気込みを伝えます。 360度評価から何が読み取れるのか身をもって体験し、部下の結果を解釈しフィードバックするときの貴重なノウハウとするためにも上層から実施することが望まれます。
■的確な名称
“評価”は、多義的な意味を含むがゆえに“査定”という響きを思い起こす社員もいます。たとえば、評価表(評価シート)は、“行動診断調査表”、“エンパワーメント実践質問票”、“リーダーシップサーベイ”などにしたり、後のフィードバックや研修など行われる施策全部を総称して、○○プログラム、××制度、△△システムとしたりします。
■評価時の選定工夫
データを活用する人は誰かという観点を中心に、企業の風土や実施目的に合わせて評価者選定の方法を変えます。本人に評価者を選ばせる、一定の条件から上司に選択させる、ある階層以上に限定するなどフレキシブルに行います。
■自己評価の実行、評価項目の公開
本人も自己を評価し周囲の評価とのギャップを理解させるようにします。さらに初回の評価を行う前に、対象者及び評価者に広報しその内容の意味を理解してもらう機会をつくります。説明会だけでなく、360度評価の評価項目についてその背景から意図について説明する講習会を運営している企業もあります。
■評価者匿名性の確保
配布時は評価者ごとへ直送し、回収時は人事あるいは研修部などへ直送するようにします。
■本人へのフィードバック
360度評価単体で実施をせず、自己啓発・能力開発のきっかけづくりを目的として必ず本人に結果を返却し、 何をどうするべきか議論する場を設けます。職場の上司、メンバーを巻き込んだフィードバックシステム(職場ミーティング)を導入し、組織活性化につなげるためにオープンなコミュニケーションを実践している企業もあります。
■複数回実施
“変化する行動”を評価していることを認識してもらい、日頃から期待されている行動を意識し、行動を変革することが重要であることを明確にします。
失敗しない360度評価制度の導入法1
http://www.recruit-ms.co.jp/issue/feature/kaihatsu/200303/01.html
最近、360度評価の導入を検討される企業が増えてきています。
弊社が昨年645社に対して行った調査によると、多面評価(360度評価)制度を実施している企業で、改訂の予定がない企業は11.6%でしたが、すでに実施していて3年以内に改訂の予定がある企業が9.8%、現在実施していないが今後3年以内に実施予定がある企業が19.2%に上りました。
しかし、昨今の新聞や経済誌では、360度評価を導入した企業で、部下に迎合するようになった上司が発生したり、同僚同士がお互いに無難な評価をつけるようになるなど、望ましくない事例が紹介されています。そうならないためには何が必要なのでしょうか?
360度評価制度を効果的に活用するポイントや、活用事例を紹介していきます。
1.360度評価で何を解決するのか
「部下が上司を逆査定」というフレーズにみられる一面的な見方ではなく、様々な効果をねらって導入されているようです。米国では、『顧客満足』という言葉を軸にして360度評価が普及してきた経緯があり、近年では、注目されている『ミッション・ビジョン経営』、あるいは『バリュー経営』という流れのなかで、企業価値や行動規範を明確にし社員をリードしていく手法として、早いスピードで普及しています。
では、人事評価の手法としての360度評価は、どんな課題解決につながるのでしょうか?
■組織業績向上
周囲の人が相互に評価し合うというシステムであり、組織に緊張感が生まれます。緊張感にも程度がありますが、“見られている”という意識は望ましい行動への動因として働きます。
複眼的、多面的に人材を評価することで、その人材の能力を総合的に把握することが可能になり、適所適材を配置するための情報(職務と人材のミスマッチ状況)を得ることができます。
本人にフィードバックすることで「気づき」が生まれ行動変革へつながります。
■社員のモチベーションの向上
“日頃一緒にいない上司から評価されるよりも周囲の一緒に仕事をしている人に評価される方が納得がいく” という意見に代表されるように、評価の納得性の向上につながります。
周囲が評価することによって、上司ひとりが評価する以上に“承認欲求(認められたい)”の向上につながります。
日頃評価される側が評価する側に立つ、あるいは評価したいがその術がなかった人々が評価に参画することで、「組織活性化への行使権」を持つことができるという意識を醸成します。
■望ましい組織文化の形成
評価項目として期待される姿勢や行動、規範などを社員に提示することで、常に会社が期待する方向を明示することになります。つまり、社員を会社が期待する方向にリードしていくことそのものといえます。
多くの社員が期待される社員像を認識する機会を創ることになります。つまり、「絵に描いた餅」にならぬように意識づけのきっかけになるわけです。
結果をフィードバックすることで、上司部下のコミュニケーション機会の増大につながり能力開発の機会を提供することができます。
評価し合うことで組織内外のコミュニケーションの量と質の向上につながります。
最近、360度評価の導入を検討される企業が増えてきています。
弊社が昨年645社に対して行った調査によると、多面評価(360度評価)制度を実施している企業で、改訂の予定がない企業は11.6%でしたが、すでに実施していて3年以内に改訂の予定がある企業が9.8%、現在実施していないが今後3年以内に実施予定がある企業が19.2%に上りました。
しかし、昨今の新聞や経済誌では、360度評価を導入した企業で、部下に迎合するようになった上司が発生したり、同僚同士がお互いに無難な評価をつけるようになるなど、望ましくない事例が紹介されています。そうならないためには何が必要なのでしょうか?
360度評価制度を効果的に活用するポイントや、活用事例を紹介していきます。
1.360度評価で何を解決するのか
「部下が上司を逆査定」というフレーズにみられる一面的な見方ではなく、様々な効果をねらって導入されているようです。米国では、『顧客満足』という言葉を軸にして360度評価が普及してきた経緯があり、近年では、注目されている『ミッション・ビジョン経営』、あるいは『バリュー経営』という流れのなかで、企業価値や行動規範を明確にし社員をリードしていく手法として、早いスピードで普及しています。
では、人事評価の手法としての360度評価は、どんな課題解決につながるのでしょうか?
■組織業績向上
周囲の人が相互に評価し合うというシステムであり、組織に緊張感が生まれます。緊張感にも程度がありますが、“見られている”という意識は望ましい行動への動因として働きます。
複眼的、多面的に人材を評価することで、その人材の能力を総合的に把握することが可能になり、適所適材を配置するための情報(職務と人材のミスマッチ状況)を得ることができます。
本人にフィードバックすることで「気づき」が生まれ行動変革へつながります。
■社員のモチベーションの向上
“日頃一緒にいない上司から評価されるよりも周囲の一緒に仕事をしている人に評価される方が納得がいく” という意見に代表されるように、評価の納得性の向上につながります。
周囲が評価することによって、上司ひとりが評価する以上に“承認欲求(認められたい)”の向上につながります。
日頃評価される側が評価する側に立つ、あるいは評価したいがその術がなかった人々が評価に参画することで、「組織活性化への行使権」を持つことができるという意識を醸成します。
■望ましい組織文化の形成
評価項目として期待される姿勢や行動、規範などを社員に提示することで、常に会社が期待する方向を明示することになります。つまり、社員を会社が期待する方向にリードしていくことそのものといえます。
多くの社員が期待される社員像を認識する機会を創ることになります。つまり、「絵に描いた餅」にならぬように意識づけのきっかけになるわけです。
結果をフィードバックすることで、上司部下のコミュニケーション機会の増大につながり能力開発の機会を提供することができます。
評価し合うことで組織内外のコミュニケーションの量と質の向上につながります。
人事制度---報酬制度
報酬制度
報酬制度のあるべき姿
オープンであること
報酬決定の仕組みが周知されており、社員の誰にも自分の報酬がどのように決まっているのかが明らかにされていることが必要です。
どのような行動を取れば自分の報酬がアップするのかがわかっていれば、社員はより意欲的に仕事に取り組むことができるでしょう。
また、会社が公正に報酬の決定をしていたとしても、どのように報酬が決められているかがブラックボックスになっていれば、会社に対する疑念を抱かせてしまいます。
公正であること
報酬の決定方法が、主観的・恣意的ではなく、客観的であり公正だと社員が認識できることが必要です。
”公正”の基準には次の3つがあります。
(1)垂直的公正さ
困難で責任の重い職務や役割を果していたり、会社への貢献度が高い人は、その度合いに応じて高い報酬を得ていること
(2)水平的公正さ
同程度の仕事をしていて、会社への貢献度が同じくらいの人であれば、同程度の報酬を得ていること
(3)対外的公正さ
世間相場を反映した報酬を得ていること
報酬の内訳
報酬の基本部分は、「給与(賃金)」と「賞与(一時金)」から成り立っており、突き詰めて言ってしまえば、報酬制度は「給与」と「賞与」の組み合わせの仕方によって規定されます。
この2つは、単に支払い方が違うだけのようにも思えますが、法律的にはまるで性格が異なります。
給与は生活の基盤となるもので、法律によって様々な保護がなされています。
もちろん、給与の額を簡単に減らすことはできません。
それに比べ、賞与は必ずしも支払う必要はありません。(あらかじめ払うと約束していたものを支払わないのは違反ですが)
年俸、インセンティブ給、成果給・・・ 報酬には様々な名称が使用されますが、それが給与なのか賞与なのか、明確に区別しておく必要があります。
給 与
毎月支給される給与は、「基本給」と「諸手当」で構成されるのが一般的です。
基本給は、給与の基本部分を構成するものです。会社の考え方や業務の性格によって、能力や職務、役割、責任の重さなど、何に対して支払うのかという定義は異なってきます。
手当は、個別の状況に対応し、基本給に付加して支給されるものです。
手当には、生活配慮的なもの(家族手当、住宅手当、地域手当など)、人事管理目的によるもの(単身赴任手当、資格手当、精・皆勤手当、出向手当など)、基本給の補完的役割を果すもの(役付手当、危険手当、交代勤務手当など)、労働量の多寡に応じたもの(時間外勤務手当、休日出勤手当、営業手当、呼出手当など)があります。
業績と給与の関連を強めていこうとする風潮の中、特に生活配慮的な手当は存在意義が薄れてきており、また数多くの手当が存在することが報酬制度を複雑にしているため、諸手当を廃止・統合や再構築する流れが一般的になっています。
賞 与
賞与は、一般的に次の役割を担うとされています。
・会社の利益の社員への分配
・会社への貢献に対する報償
・生活給の一部(給与の後払い)
会社にとっての賞与とは、
・社員の生活の安定を考えると、会社の業績が上下しても、給与はあまり大きく変動することはできません。それに対して賞与は、業績が好調なときは一時的に増額でき、業績が悪化したときは一時的にカットできる、つまり、人件費の弾力化を可能とし、それにより経営の安定と雇用の安定に寄与するものです。
・給与では、生活への影響度を考えるとなかなか大きな格差をつけることができませんが、賞与は臨時収入的な性格であることから、人事評価に応じた思いきった格差をつけることが可能であり、それにより社員の仕事へのインセンティブを高めることができます。
年俸制についての注意点
最近「年俸制」を導入している企業が増えていますが、かなり誤解が多いようです。(そもそも「年俸制」についての明確な定義というものもないのですが)
「年俸を○○○万円とし、その1/16を毎月○日に、2/16を6月と12月に支払う」という文言をよく見かけますが、この記述だと6月と12月に支払う分もあらかじめ定められた「給与」とみなされ、支給額の削減はできません。
また、年俸制であっても、残業代は支払う義務があります。あくまで所定の労働条件に則っての年俸額ですから(例えば週休2日、1日の所定労働時間8時間)、それを超えた部分は、支払わなければなりません。月額には基本給と所定の残業時間分の残業手当を含むということで、規定等に定めた上給与明細でも明確に区分して支払っている場合は、実際の残業時間がその所定の残業時間を超えない限りは問題ありませんが、超えた場合はその超過分の残業手当を支払わなければなりません。
それから、上の例でいえば2/16の分を、いつからいつまでの算定対象期間分として支払っているのかが不明な場合も見受けられます。この場合、中途入社する月によって不公平が生じるようでは問題です。必ず、明確にしておきましょう。
報酬制度のあるべき姿
オープンであること
報酬決定の仕組みが周知されており、社員の誰にも自分の報酬がどのように決まっているのかが明らかにされていることが必要です。
どのような行動を取れば自分の報酬がアップするのかがわかっていれば、社員はより意欲的に仕事に取り組むことができるでしょう。
また、会社が公正に報酬の決定をしていたとしても、どのように報酬が決められているかがブラックボックスになっていれば、会社に対する疑念を抱かせてしまいます。
公正であること
報酬の決定方法が、主観的・恣意的ではなく、客観的であり公正だと社員が認識できることが必要です。
”公正”の基準には次の3つがあります。
(1)垂直的公正さ
困難で責任の重い職務や役割を果していたり、会社への貢献度が高い人は、その度合いに応じて高い報酬を得ていること
(2)水平的公正さ
同程度の仕事をしていて、会社への貢献度が同じくらいの人であれば、同程度の報酬を得ていること
(3)対外的公正さ
世間相場を反映した報酬を得ていること
報酬の内訳
報酬の基本部分は、「給与(賃金)」と「賞与(一時金)」から成り立っており、突き詰めて言ってしまえば、報酬制度は「給与」と「賞与」の組み合わせの仕方によって規定されます。
この2つは、単に支払い方が違うだけのようにも思えますが、法律的にはまるで性格が異なります。
給与は生活の基盤となるもので、法律によって様々な保護がなされています。
もちろん、給与の額を簡単に減らすことはできません。
それに比べ、賞与は必ずしも支払う必要はありません。(あらかじめ払うと約束していたものを支払わないのは違反ですが)
年俸、インセンティブ給、成果給・・・ 報酬には様々な名称が使用されますが、それが給与なのか賞与なのか、明確に区別しておく必要があります。
給 与
毎月支給される給与は、「基本給」と「諸手当」で構成されるのが一般的です。
基本給は、給与の基本部分を構成するものです。会社の考え方や業務の性格によって、能力や職務、役割、責任の重さなど、何に対して支払うのかという定義は異なってきます。
手当は、個別の状況に対応し、基本給に付加して支給されるものです。
手当には、生活配慮的なもの(家族手当、住宅手当、地域手当など)、人事管理目的によるもの(単身赴任手当、資格手当、精・皆勤手当、出向手当など)、基本給の補完的役割を果すもの(役付手当、危険手当、交代勤務手当など)、労働量の多寡に応じたもの(時間外勤務手当、休日出勤手当、営業手当、呼出手当など)があります。
業績と給与の関連を強めていこうとする風潮の中、特に生活配慮的な手当は存在意義が薄れてきており、また数多くの手当が存在することが報酬制度を複雑にしているため、諸手当を廃止・統合や再構築する流れが一般的になっています。
賞 与
賞与は、一般的に次の役割を担うとされています。
・会社の利益の社員への分配
・会社への貢献に対する報償
・生活給の一部(給与の後払い)
会社にとっての賞与とは、
・社員の生活の安定を考えると、会社の業績が上下しても、給与はあまり大きく変動することはできません。それに対して賞与は、業績が好調なときは一時的に増額でき、業績が悪化したときは一時的にカットできる、つまり、人件費の弾力化を可能とし、それにより経営の安定と雇用の安定に寄与するものです。
・給与では、生活への影響度を考えるとなかなか大きな格差をつけることができませんが、賞与は臨時収入的な性格であることから、人事評価に応じた思いきった格差をつけることが可能であり、それにより社員の仕事へのインセンティブを高めることができます。
年俸制についての注意点
最近「年俸制」を導入している企業が増えていますが、かなり誤解が多いようです。(そもそも「年俸制」についての明確な定義というものもないのですが)
「年俸を○○○万円とし、その1/16を毎月○日に、2/16を6月と12月に支払う」という文言をよく見かけますが、この記述だと6月と12月に支払う分もあらかじめ定められた「給与」とみなされ、支給額の削減はできません。
また、年俸制であっても、残業代は支払う義務があります。あくまで所定の労働条件に則っての年俸額ですから(例えば週休2日、1日の所定労働時間8時間)、それを超えた部分は、支払わなければなりません。月額には基本給と所定の残業時間分の残業手当を含むということで、規定等に定めた上給与明細でも明確に区分して支払っている場合は、実際の残業時間がその所定の残業時間を超えない限りは問題ありませんが、超えた場合はその超過分の残業手当を支払わなければなりません。
それから、上の例でいえば2/16の分を、いつからいつまでの算定対象期間分として支払っているのかが不明な場合も見受けられます。この場合、中途入社する月によって不公平が生じるようでは問題です。必ず、明確にしておきましょう。
人事制度---等級制度
等級制度の意義
会社の戦略を実行するのは、組織であり組織に所属する人です。
従って、組織と人が活かされる体制になっていることが求められ、組織と人のあり方が人事制度に反映されなければなりません。
また、社員の採用時には、
・社長や担当者が経験上から設定する妥当な水準
・その人の前職における年収
・需給状況(人がいないのでどうしても急いで入社して欲しいなどといった事情)
等を勘案して年収を設定すると思います。
設定した年収はその時点における理由があると思いますが、事業を運営していくなかで、良い意味でも悪い意味でも処遇を見直す必要が生じてくるので、そのための基準が求められます。
そのため、等級制度が必要となってきます。
また等級制度の整備により、仕事には何を求められるのか、どういう役割を果すと報酬がいくらもらえるのかが明確になり、社員を公平に処遇する尺度ができるため、社員のやる気を促進します。
等級の設定例
等級の定義に関する考え方はいろいろありますが、ベンチャー企業においては次のような考え方でよろしいかと思います。
実際の組織の運営や仕事の進め方に合わせて、社員が組織の中で果す役割を整理し、いくつかの等級に分ける。
そして、その等級に求められる能力を定義し、どれくらいの報酬を支払うのかを設定する。
(例)
等級 役割及び求められる能力レベル
スタッフ 上司の指示のもとに、担当業務を遂行する。 求められる能力レベルは・・・
リーダー チームに相当する組織の責任者もしくは部に相当する組織のまとめ役として、上司の指示のもとに部下を指導して組織をまとめながら担当業務を遂行する。 求められる能力レベルは・・・
マネジャー 部に相当する組織の責任者として、部門方針・目標に基づき、担当組織の方針を決定し、他部門・社内外関係先と必要な調整を行い、下位者を統括して組織の力を発揮させ、担当業務を遂行する。 求められる能力レベルは・・・
スペシャリスト 部下を持たず、専門分野だけに取り組む。 求められる能力レベルは・・・
※管理職に相当する等級には、通常残業手当を支給しませんので、その分を考慮した報酬の設定をします。
会社の戦略を実行するのは、組織であり組織に所属する人です。
従って、組織と人が活かされる体制になっていることが求められ、組織と人のあり方が人事制度に反映されなければなりません。
また、社員の採用時には、
・社長や担当者が経験上から設定する妥当な水準
・その人の前職における年収
・需給状況(人がいないのでどうしても急いで入社して欲しいなどといった事情)
等を勘案して年収を設定すると思います。
設定した年収はその時点における理由があると思いますが、事業を運営していくなかで、良い意味でも悪い意味でも処遇を見直す必要が生じてくるので、そのための基準が求められます。
そのため、等級制度が必要となってきます。
また等級制度の整備により、仕事には何を求められるのか、どういう役割を果すと報酬がいくらもらえるのかが明確になり、社員を公平に処遇する尺度ができるため、社員のやる気を促進します。
等級の設定例
等級の定義に関する考え方はいろいろありますが、ベンチャー企業においては次のような考え方でよろしいかと思います。
実際の組織の運営や仕事の進め方に合わせて、社員が組織の中で果す役割を整理し、いくつかの等級に分ける。
そして、その等級に求められる能力を定義し、どれくらいの報酬を支払うのかを設定する。
(例)
等級 役割及び求められる能力レベル
スタッフ 上司の指示のもとに、担当業務を遂行する。 求められる能力レベルは・・・
リーダー チームに相当する組織の責任者もしくは部に相当する組織のまとめ役として、上司の指示のもとに部下を指導して組織をまとめながら担当業務を遂行する。 求められる能力レベルは・・・
マネジャー 部に相当する組織の責任者として、部門方針・目標に基づき、担当組織の方針を決定し、他部門・社内外関係先と必要な調整を行い、下位者を統括して組織の力を発揮させ、担当業務を遂行する。 求められる能力レベルは・・・
スペシャリスト 部下を持たず、専門分野だけに取り組む。 求められる能力レベルは・・・
※管理職に相当する等級には、通常残業手当を支給しませんので、その分を考慮した報酬の設定をします。
人事制度---評価制度
人事評価-評価制度
社員の何を評価し、どのように処遇に結び付けていくかは、その企業の人材に関する考え方を直接示す、とても大事なものです。
企業の目的に合った評価指標を定め、社員に明示していきましょう。
ただ、何よりも重要なことは、被評価者の実力について単刀直入にフィードバックし、会社が本人に何を期待しているのかをきちんと伝えることです。
上司が部下と常に一緒に行動しているからといって、全て分かり合えているというのは幻想です。きちんとオフィシャルな場を設けて、コミュニケーションをしっかり取りましょう。
評価の対象
個人の企業活動は、「能力」が発揮されて、「行動」に結びつき、「業績」となって形に表れます。
本人が業務を遂行するうえでは、どれも一体となって分かちがたいものですが、評価をする際にどの部分にスポットをあてるかによって、制度の性格に大きな違いがでます。
能力評価
職務遂行上保有すべき知識・技能・技術や、職務遂行上期待されるポテンシャル(理解力・判断力・折衝力・企画力・統率力など)、または勤務態度・仕事への取り組み姿勢・意気込みなどを、評価の対象とします。
能力は全ての源であり、もちろん能力がなければ業績をあげることもできません。
また、能力はその期毎に大幅な上下があるとは考えにいので、評価は比較的安定した推移が基調となり、成長した分野について加点評価をしていくという形になります。
しかしながら能力は形のあるものではなく、また必ずしも発揮されるとは限りません。
そのレベルを表記するにも「~ができる」といったような抽象的な表現になりがちです。
業績評価
売上高、利益、顧客獲得数、新商品開発件数、クレーム発生率など、課せられた目標に対して実際に達成した結果を評価の対象とします。
客観的に判断しやすい指標をもとに評価しますので、評価結果は容易に導き出すことができます。
また、業績はその期毎に大きな変動のあることが予想されますので、メリハリの効いたものとなるでしょう。
ただし、ずっと良い働きかけをしていてもその期に結果が出なかったものや、目に見えない形で企業に貢献したことは、評価されません。
しかも、あまりに結果指標を重視しすぎると、目先の数値を追うだけの短期志向に陥り、結果として顧客との利益相反を生じることも考えられます。
※業績を評価するに当たっては、「目標管理制度」を導入するケースが多いようです。
また、業績を評価するに当たって、個人の業績を重視するのか、部門の業績を重視するのか、企業全体の業績を重視するのかを、事業の内容によって判断する必要があります。
行動評価
会社にとって適切なプロセスをとっているかどうかを評価の対象とします。
最近脚光を浴びているコンピテンシー評価やバリュー評価が、これにあたります。
コンピテンシーは、「成果を上げつづけることのできる行動特性」などと定義され、会社のそれぞれのハイパフォーマーから抽出された行動能力を、各人がどれだけ発揮しているかで評価するのが、コンピテンシー評価です。
バリュー評価でいうバリューとは、「会社が全社的に共有すべき価値基準や行動基準」のことをいいます。この基準を満たす行動をとっているかどうかを評価するのが、バリュー評価です。
業績評価をメインの評価指標として据えたうえで、業績評価の欠点を補完するために、行動評価をペアで導入するケースが多く見られます。
社員の何を評価し、どのように処遇に結び付けていくかは、その企業の人材に関する考え方を直接示す、とても大事なものです。
企業の目的に合った評価指標を定め、社員に明示していきましょう。
ただ、何よりも重要なことは、被評価者の実力について単刀直入にフィードバックし、会社が本人に何を期待しているのかをきちんと伝えることです。
上司が部下と常に一緒に行動しているからといって、全て分かり合えているというのは幻想です。きちんとオフィシャルな場を設けて、コミュニケーションをしっかり取りましょう。
評価の対象
個人の企業活動は、「能力」が発揮されて、「行動」に結びつき、「業績」となって形に表れます。
本人が業務を遂行するうえでは、どれも一体となって分かちがたいものですが、評価をする際にどの部分にスポットをあてるかによって、制度の性格に大きな違いがでます。
能力評価
職務遂行上保有すべき知識・技能・技術や、職務遂行上期待されるポテンシャル(理解力・判断力・折衝力・企画力・統率力など)、または勤務態度・仕事への取り組み姿勢・意気込みなどを、評価の対象とします。
能力は全ての源であり、もちろん能力がなければ業績をあげることもできません。
また、能力はその期毎に大幅な上下があるとは考えにいので、評価は比較的安定した推移が基調となり、成長した分野について加点評価をしていくという形になります。
しかしながら能力は形のあるものではなく、また必ずしも発揮されるとは限りません。
そのレベルを表記するにも「~ができる」といったような抽象的な表現になりがちです。
業績評価
売上高、利益、顧客獲得数、新商品開発件数、クレーム発生率など、課せられた目標に対して実際に達成した結果を評価の対象とします。
客観的に判断しやすい指標をもとに評価しますので、評価結果は容易に導き出すことができます。
また、業績はその期毎に大きな変動のあることが予想されますので、メリハリの効いたものとなるでしょう。
ただし、ずっと良い働きかけをしていてもその期に結果が出なかったものや、目に見えない形で企業に貢献したことは、評価されません。
しかも、あまりに結果指標を重視しすぎると、目先の数値を追うだけの短期志向に陥り、結果として顧客との利益相反を生じることも考えられます。
※業績を評価するに当たっては、「目標管理制度」を導入するケースが多いようです。
また、業績を評価するに当たって、個人の業績を重視するのか、部門の業績を重視するのか、企業全体の業績を重視するのかを、事業の内容によって判断する必要があります。
行動評価
会社にとって適切なプロセスをとっているかどうかを評価の対象とします。
最近脚光を浴びているコンピテンシー評価やバリュー評価が、これにあたります。
コンピテンシーは、「成果を上げつづけることのできる行動特性」などと定義され、会社のそれぞれのハイパフォーマーから抽出された行動能力を、各人がどれだけ発揮しているかで評価するのが、コンピテンシー評価です。
バリュー評価でいうバリューとは、「会社が全社的に共有すべき価値基準や行動基準」のことをいいます。この基準を満たす行動をとっているかどうかを評価するのが、バリュー評価です。
業績評価をメインの評価指標として据えたうえで、業績評価の欠点を補完するために、行動評価をペアで導入するケースが多く見られます。
Thursday, March 10, 2005
オフショア開発で明暗別れるプログラマーのキャリア
[梅田望夫・英語で読むITトレンド]
オフショア開発で明暗別れるプログラマーのキャリア
http://blog.japan.cnet.com/umeda/archives/001055.html
オフショア開発で明暗別れるプログラマーのキャリア
2004年03月01日 09:35
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Business Week誌最新号のカバーストーリーは、題して「SOFTWARE」である。サブタイトルは、
「Programming jobs are heading overseas by the thousands. Is there a way for the U.S. to stay on top?」
米国にとってのソフトウェアは、日本にとっての製造業と同じような意味合いを持っているから、昨今のインド、中国への仕事のシフトは、米国にとって本当に深刻な問題なのである。ここから雑誌全体の目次が見られて、それぞれの記事や図表へのリンクもたどれる。まずは記事の中に挿入された図表の中から、ソフトウェア・ピラミッドを、ご紹介することにしよう。
米国300万プログラマーのピラミッド構造
まず、「Software programming is the iconic jobs of the Information Age, but not all programmers are created equal. Here’s the breakdown of software jobs and their prospects」と書かれているように、この図では、ソフトウェアに関する仕事のピラミッドを6階層に分類し、それぞれの階層ごとの今後について一覧したものである。ちなみに、米国全体では約300万人が、このピラミッドにどこかに位置している。
まず、頂点に位置するのが、Architect階層(第1階層)である。「A few thousand tech visionaries sketch out entire systems to handle complex jobs.」というわけで、この階層は数千人の世界。例としては、BEA SystemsのChief ArchitectのAdam Bosworthが挙げられている。年収は15万ドルから25万ドル。アウトソーシングの影響はいっさい受けない。
さて、次が、Researcher階層(第2階層)である。ここがイノベーションのためのカギで、米国にとっての生命線である。ここに2万5000人くらい居るとBusiness Week誌は推定している。年収はアカデミアだと5万ドル。在野だと19万5000ドル。基本的にはこの階層の将来は明るいが、この仕事もオフショアに出て行く可能性がある。
そして、Consultant階層(第3階層)。企業のテクノロジー・ニーズについてアドバイスし、新しいソフトウェアをインストールしたり、新しいアプリケーションをスクラッチから作ったりする、ビジネスに精通したコンサルタント。年収は7万2000ドルから20万ドル。この階層の将来は明るい。
次が、Project Manager階層(第4階層)。グローバルソフトウェア工場の重要な歯車。異なる国、異なるタイムゾーンで働くチームをコーディネートして、仕事を時間通りに完遂する仕事。これに関連しては、本連載2月12日「グローバル化が進む分散開発体制の今」も合わせてご参照。年収は9万6000ドルから13万ドル。ここでいいマネージャーになれば、仕事は安泰。
そして下から2つ目が、Business Analysts階層(第5階層)。ビジネスニーズからプログラマーのためのスペックに落とす人。年収は5万2000ドルから9万ドル。ビジネスセンスがあって、コミュニケーションスキルがあるプログラマーにとって比較的安全な場所(仕事が外に出て行かない)。
そして最後が、Basic Programmers階層(第6階層)。「The foot soldiers in the information economy」(情報経済における歩兵)で、アプリケーション用のコードを書き、アップデートして、テストする。年収は5万2000ドルから8万1000ドル。仕事が海外に出て行ってしまうという意味では、ここが一番危ない。この階層における仕事の18%が、6年以内に、オフショアに流れていくというのがフォレスターの予想。
ネット企業のソフトウェア・エンジニアはこれから
このソフトウェア階層構造について一言コメントするとすれば、昨年10月20日の本欄「雇用なき景気回復とITエンジニアの雇用をめぐる大転換」の最後で問題提起した、ネット企業におけるソフトウェア・エンジニアが、きちんと分類されていないように思った。その件に関連しては、CNET Japan山岸編集長がそのBlogで、
「とにかく、何か新しいビジネスをオンラインで立ち上げるためには、ユーザーのフィードバックを集めながら、Plan -> Do -> Check -> Actionを繰り返していけるような体制を社内に集めないとだめだろうということです。いちいち用件定義して、仕様書書いて、SIerに発注なんてしていたら、時間もお金もかかりすぎて、事業として成り立ちません。オンラインのオペレーションは変化の連続ですが、アウトソーシングしてコストメリットが出るのは枯れたオペレーションだけなので、ここを外に出すとかえってコストは上がるし、スピードは下がるし、品質は悪化するしで、良いこと無しだろうと思うんです。」
と書いているが、まさにこういう仕事は、このソフトウェア階層モデルのどこに入るのだろう。よくまとまってはいるが、この6階層モデルは若干古いかな、という気もしなくはない。
4人の登場人物
ただいずれにせよ、この特集記事は、好むと好まざるとに関わらず、まずこういうピラミッド構造の現実を認識した上でキャリアを考えるべきだ、というアメリカ的な発想に貫かれている。そして、この記事には、4人の人物が登場する。
登場人物は、1人目がDeepa Paranjpe。24歳。女性。独身。在インド。インド工科大学の修士をまもなく卒業。
「Starts in June as a data-mining engineer at Veritas Software's facility in Pune. Pay: $10,620 per year」
6月からVeritas Softwareにデータ・マイニング技術者として働く。年収1万620ドル。ゴールは起業家になって大成功すること。インド工科大学といえば、膨大な人口を抱えるインドの高校生の中からトップクラスの学生だけがいける大学。その修士卒業生で、さぁこれからと未来に目を輝かせている若い技術者を、きちんとやれば年収1万ドル少々で雇えるのだから、アメリカの卒業生も厳しい。
登場人物の2人目がStephen Haberman。22歳。男性。既婚。在アメリカ。奥さんもプログラマーだが仕事がない。カーネギーメロン大学のソフトウェア・エンジニアリングの修士をまもなく卒業。仕事はまだ見つかっていない。ゴールは「To start a software-services company in Omaha and become a millionaire」。彼は10代からマイクロソフト主催のプログラミング・コンテストに出たり、アルバイトでかなり難しいプログラムを書き続けてきた逸材。その彼をして、
「And Stephen, if he misplays his hand, could find himself competing with lowballing Filipinos or Uruguayans.」
と称されてしまうところが、競争の厳しさを示している。
3人目の登場人物は、Florentin Badea。27歳。男性。在ルーマニア。Polytechnic University of Bucharest卒。専攻はコンピュータ・サイエンス。「Day job designing Web pages for an American tech company, which he declines to name. Finds freelance work on RentACoder.com. Clears $3,000 per month」で生計を立てている。ルーマニアで$3000/monthといえば、かなりの収入といえる。
最後の登場人物は、Hal Reed。34歳。男性。Wesleyan University卒。数学専攻。在アメリカ。「Answered an ad for entry-level programming work at cMarket, in Cambridge, Mass., for $45,000. Quick promotion to software architect nearly doubled his pay」。新聞広告でベンチャーに4万5000ドルのエントリーレベルの仕事で就職し、すぐにソフトウェアアーキテクトに昇進して、年収は倍に。ゴールはこのベンチャーを一気に立ち上げること。
この「SOFTWARE」という長文記事は、この4人を実例として取り上げながら、米国ソフトウェア産業のこれから、オフショアリングのこれからが、わかりやすく解説されている。アメリカからの視点ばかりでなく、インドからの視点も合わせてある。サプライズはないが、ソフトウェアの世界で、日本の外では、今どんなことが起きているのかを考えるには、とてもいい読み物だと思う。
トム・ピーターズのオフショア論
さて、オフショアリングについては、Tom Petersが、「"Off-shoring" Manifesto/Rant: Sixteen Hard Truths」を書いているので、それも興味のある方は、ぜひご参照ください。John RobbはそのBlogで、
「His conclusion: we need to train many, many more creative, risk-taking entrepreneurs. That will require a massive shift in how we educate our youth. The only reliable indicator of whether you will be an entrepreneur: you are the son or daughter of an entrepreneur. If that skillset can't be transferred more generally, most people will be left behind.」
とTom Petersの論を総括している。オフショアリング・トレンドは避けられないのだから、アメリカはもっともっとたくさんの創造的でリスクを取る起業家を生み出さなければならない、というのがTomの結論。そのためには根本的に教育から考え直す必要があると。もしオフショアリングを期に、アメリカがこういう方向に真剣になると、創造性とか起業家精神といった意味では日本の教育からはさらに2周、3周先を行き、全く質の違うどこかに行ってしまいそうだ。
また、シリコンバレーからの日本語Blog「死んでしまったら私のことなんか誰も話さない」では、このTom Petersの論も含めた詳細な解説「海外アウトソーシングの波にアメリカはどう立ち向かうのか」があります。このBlogも、最近登場した「観察・啓蒙系」で質の高いものの一つですね。
オフショア開発で明暗別れるプログラマーのキャリア
http://blog.japan.cnet.com/umeda/archives/001055.html
オフショア開発で明暗別れるプログラマーのキャリア
2004年03月01日 09:35
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Business Week誌最新号のカバーストーリーは、題して「SOFTWARE」である。サブタイトルは、
「Programming jobs are heading overseas by the thousands. Is there a way for the U.S. to stay on top?」
米国にとってのソフトウェアは、日本にとっての製造業と同じような意味合いを持っているから、昨今のインド、中国への仕事のシフトは、米国にとって本当に深刻な問題なのである。ここから雑誌全体の目次が見られて、それぞれの記事や図表へのリンクもたどれる。まずは記事の中に挿入された図表の中から、ソフトウェア・ピラミッドを、ご紹介することにしよう。
米国300万プログラマーのピラミッド構造
まず、「Software programming is the iconic jobs of the Information Age, but not all programmers are created equal. Here’s the breakdown of software jobs and their prospects」と書かれているように、この図では、ソフトウェアに関する仕事のピラミッドを6階層に分類し、それぞれの階層ごとの今後について一覧したものである。ちなみに、米国全体では約300万人が、このピラミッドにどこかに位置している。
まず、頂点に位置するのが、Architect階層(第1階層)である。「A few thousand tech visionaries sketch out entire systems to handle complex jobs.」というわけで、この階層は数千人の世界。例としては、BEA SystemsのChief ArchitectのAdam Bosworthが挙げられている。年収は15万ドルから25万ドル。アウトソーシングの影響はいっさい受けない。
さて、次が、Researcher階層(第2階層)である。ここがイノベーションのためのカギで、米国にとっての生命線である。ここに2万5000人くらい居るとBusiness Week誌は推定している。年収はアカデミアだと5万ドル。在野だと19万5000ドル。基本的にはこの階層の将来は明るいが、この仕事もオフショアに出て行く可能性がある。
そして、Consultant階層(第3階層)。企業のテクノロジー・ニーズについてアドバイスし、新しいソフトウェアをインストールしたり、新しいアプリケーションをスクラッチから作ったりする、ビジネスに精通したコンサルタント。年収は7万2000ドルから20万ドル。この階層の将来は明るい。
次が、Project Manager階層(第4階層)。グローバルソフトウェア工場の重要な歯車。異なる国、異なるタイムゾーンで働くチームをコーディネートして、仕事を時間通りに完遂する仕事。これに関連しては、本連載2月12日「グローバル化が進む分散開発体制の今」も合わせてご参照。年収は9万6000ドルから13万ドル。ここでいいマネージャーになれば、仕事は安泰。
そして下から2つ目が、Business Analysts階層(第5階層)。ビジネスニーズからプログラマーのためのスペックに落とす人。年収は5万2000ドルから9万ドル。ビジネスセンスがあって、コミュニケーションスキルがあるプログラマーにとって比較的安全な場所(仕事が外に出て行かない)。
そして最後が、Basic Programmers階層(第6階層)。「The foot soldiers in the information economy」(情報経済における歩兵)で、アプリケーション用のコードを書き、アップデートして、テストする。年収は5万2000ドルから8万1000ドル。仕事が海外に出て行ってしまうという意味では、ここが一番危ない。この階層における仕事の18%が、6年以内に、オフショアに流れていくというのがフォレスターの予想。
ネット企業のソフトウェア・エンジニアはこれから
このソフトウェア階層構造について一言コメントするとすれば、昨年10月20日の本欄「雇用なき景気回復とITエンジニアの雇用をめぐる大転換」の最後で問題提起した、ネット企業におけるソフトウェア・エンジニアが、きちんと分類されていないように思った。その件に関連しては、CNET Japan山岸編集長がそのBlogで、
「とにかく、何か新しいビジネスをオンラインで立ち上げるためには、ユーザーのフィードバックを集めながら、Plan -> Do -> Check -> Actionを繰り返していけるような体制を社内に集めないとだめだろうということです。いちいち用件定義して、仕様書書いて、SIerに発注なんてしていたら、時間もお金もかかりすぎて、事業として成り立ちません。オンラインのオペレーションは変化の連続ですが、アウトソーシングしてコストメリットが出るのは枯れたオペレーションだけなので、ここを外に出すとかえってコストは上がるし、スピードは下がるし、品質は悪化するしで、良いこと無しだろうと思うんです。」
と書いているが、まさにこういう仕事は、このソフトウェア階層モデルのどこに入るのだろう。よくまとまってはいるが、この6階層モデルは若干古いかな、という気もしなくはない。
4人の登場人物
ただいずれにせよ、この特集記事は、好むと好まざるとに関わらず、まずこういうピラミッド構造の現実を認識した上でキャリアを考えるべきだ、というアメリカ的な発想に貫かれている。そして、この記事には、4人の人物が登場する。
登場人物は、1人目がDeepa Paranjpe。24歳。女性。独身。在インド。インド工科大学の修士をまもなく卒業。
「Starts in June as a data-mining engineer at Veritas Software's facility in Pune. Pay: $10,620 per year」
6月からVeritas Softwareにデータ・マイニング技術者として働く。年収1万620ドル。ゴールは起業家になって大成功すること。インド工科大学といえば、膨大な人口を抱えるインドの高校生の中からトップクラスの学生だけがいける大学。その修士卒業生で、さぁこれからと未来に目を輝かせている若い技術者を、きちんとやれば年収1万ドル少々で雇えるのだから、アメリカの卒業生も厳しい。
登場人物の2人目がStephen Haberman。22歳。男性。既婚。在アメリカ。奥さんもプログラマーだが仕事がない。カーネギーメロン大学のソフトウェア・エンジニアリングの修士をまもなく卒業。仕事はまだ見つかっていない。ゴールは「To start a software-services company in Omaha and become a millionaire」。彼は10代からマイクロソフト主催のプログラミング・コンテストに出たり、アルバイトでかなり難しいプログラムを書き続けてきた逸材。その彼をして、
「And Stephen, if he misplays his hand, could find himself competing with lowballing Filipinos or Uruguayans.」
と称されてしまうところが、競争の厳しさを示している。
3人目の登場人物は、Florentin Badea。27歳。男性。在ルーマニア。Polytechnic University of Bucharest卒。専攻はコンピュータ・サイエンス。「Day job designing Web pages for an American tech company, which he declines to name. Finds freelance work on RentACoder.com. Clears $3,000 per month」で生計を立てている。ルーマニアで$3000/monthといえば、かなりの収入といえる。
最後の登場人物は、Hal Reed。34歳。男性。Wesleyan University卒。数学専攻。在アメリカ。「Answered an ad for entry-level programming work at cMarket, in Cambridge, Mass., for $45,000. Quick promotion to software architect nearly doubled his pay」。新聞広告でベンチャーに4万5000ドルのエントリーレベルの仕事で就職し、すぐにソフトウェアアーキテクトに昇進して、年収は倍に。ゴールはこのベンチャーを一気に立ち上げること。
この「SOFTWARE」という長文記事は、この4人を実例として取り上げながら、米国ソフトウェア産業のこれから、オフショアリングのこれからが、わかりやすく解説されている。アメリカからの視点ばかりでなく、インドからの視点も合わせてある。サプライズはないが、ソフトウェアの世界で、日本の外では、今どんなことが起きているのかを考えるには、とてもいい読み物だと思う。
トム・ピーターズのオフショア論
さて、オフショアリングについては、Tom Petersが、「"Off-shoring" Manifesto/Rant: Sixteen Hard Truths」を書いているので、それも興味のある方は、ぜひご参照ください。John RobbはそのBlogで、
「His conclusion: we need to train many, many more creative, risk-taking entrepreneurs. That will require a massive shift in how we educate our youth. The only reliable indicator of whether you will be an entrepreneur: you are the son or daughter of an entrepreneur. If that skillset can't be transferred more generally, most people will be left behind.」
とTom Petersの論を総括している。オフショアリング・トレンドは避けられないのだから、アメリカはもっともっとたくさんの創造的でリスクを取る起業家を生み出さなければならない、というのがTomの結論。そのためには根本的に教育から考え直す必要があると。もしオフショアリングを期に、アメリカがこういう方向に真剣になると、創造性とか起業家精神といった意味では日本の教育からはさらに2周、3周先を行き、全く質の違うどこかに行ってしまいそうだ。
また、シリコンバレーからの日本語Blog「死んでしまったら私のことなんか誰も話さない」では、このTom Petersの論も含めた詳細な解説「海外アウトソーシングの波にアメリカはどう立ち向かうのか」があります。このBlogも、最近登場した「観察・啓蒙系」で質の高いものの一つですね。
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